TOP

『中学生に「自由」は早すぎる』と言われ続けた生徒に送る言葉。

画像1 画像1
これは卒業した3年生への式辞です。「中学生に自由は早すぎる」と言われ続けながら、頑張って、自由を手に入れた生徒へのメッセージです。本校の生徒は本気で思っています。「学校は自分たちでつくる!」「自分たちで学校は変えられる!」と。長―い文ですがよろしければお付き合いください(学校便り第12号と同じです)。これは1,2年生の修了式の時のメッセージとして送りました。また、次の学校長への申し送り事項でもあります。

『 式辞
3年生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、保護者の皆様におかれましても、お子様のご卒業誠におめでとうございます。心よりお喜び申し上げます。
さて、思いもしなかった「全国一斉休校」から三年がたちます。世界中がパンデミックに襲われ、不安や恐怖との戦いが始まりました。その真っただ中、皆さんが入学してきました。休校から分散登校、そして3密での生活を余儀なくされる中、学校生活が始まりました。人との距離をとる、大声を出さない、黙食、必ずマスクを着用。こうしてみなさんの「マスク生活」が始まりました。このコロナウイルス感染症をめぐっての3年間、世界中で多くの命が奪われてしまいました。やはり自然の猛威の中では、人類はなすすべもない事を改めて実感させられました。

しかし、この3年間の経験は皆さんにとってはつらい事も多くありましたが、学ぶべき点もたくさんあったように思います。未知なるウイルスで人々の生活が一変した事、今までのあたりまえや正解が全く通用しなくなった事などたくさんありましたが、特に社会構造を見抜くきっかけとなったことはとても大きかったと思います。
致し方なかった部分もありましたが、メディアでは毎日毎日感染者数を発表し続け「過去最大」「未だかつてない」が連呼され、学校関係の様々な決定事項も学校に知らされる前に、報道されていきました。そのうちに、感染拡大の原因は「パチンコ店」だと言われ始め、次には「ライブハウス」となり、最後には「飲食店」になりました。
こうして多くの業種の方々が閉店に追い込まれる事態も出てきました。しかし、オリンピックは平然と行われ、旅行はいつも支援されました。結局この3年間、何もわからないまま、いや、何も変わらず過ぎ去ったのではないでしょうか。なぜ、昨日からマスクをはずしてよくなったのか、なぜ、5月からはインフルエンザ扱いになるのか、これもわからないままです。しかも、卒業式では「基本マスクをはずしなさい」という指示です。
デジタルネイティブである子どもたちはもう社会構造を見抜いてしまいました。大人たちが「自分の損得を考え、忖度し、上手くいかない事は他人のせいにする事」も「善と悪に分けて少数派の悪を徹底的にやりこめる事」も知りました。また、この「当たり前」や「正解」が変われば困る人がいるんだという事、「矛盾だらけの差別だらけの世の中」であってくれたほうが都合のいい人がいる事に気づいてしまいました。今も子どもたちは思っています。別に給食費を無料にしてほしいと言う事ではない、お米を買いたいわけでもない、旅行の支援をしてほしいわけでもない。「不条理で理不尽な社会構造を変えてほしい」。そう思っているのです。

日本人は絶滅危惧種だとも言われています。この多様な世の中、グローバルな視点で世界を創っていかなければならないのに、「日本人」と言うくくりで、他を排除する。海外から来ている人を低賃金で働かせる。税金は納めさせるが、選挙権は与えない。この、上から目線はいつの時代も変わりません。しかし、本気になって社会構造を変えなければ、百年後の日本の人口はこのままでは3千万人になるとも言われています。もう時代は変わったのです。コロナ前に戻ってはダメなのです。覚悟も持って変革していかなければならないのです。
学校の話に戻ります。みなさんの中学校生活が始まった時には、既に学校の構造は変わりつつありました。一年目は「学校をリデザインしよう」。2年目は「学校をイノベーションしよう」。今年は「アップデートしよう」。こうして次々と学校を改革していきました。起立・礼もなくなり、日直も学級代表も給食当番もなくなりました。これは「本当に必要なのか」という「当たり前を問い直し続けた」結果です。この学校改革は、今でこそ、多くの学校が取り組み始め、他府県から数多くの学校が視察に訪れるようになりました。理由は危機感を持っている首長や教育長が変えなければならないと感じ始めて、学校に指示を出しますが、現場はどうしていいのかわからない。だから視察と言う流れです。
しかし、この3年間は、批判とのたたかいでもありました。自分が経験したことがない事は受け入れにくいという事はわかります。これは私自身も同様です。日本中の先生と繋がり、学び続け、自分の価値観をいったん壊しての取り組みです。
日本の和の文化は尊いものです。落とし物をしても、携帯電話を置き忘れても大概は戻ってきます。こんな国はまずないだろうと思います。しかし、「何かを変えたり、新しいチャレンジをする」事は好みません。これは学校教育のたまものだと思っています。「みんな同じであれ」「指示通り動いていればいい」と言う事です。

今、本校の生徒は「民主主義」や「自由の本当の意味」を真剣に考えています。ここまで考えられるようになったのは、百年以上続いてきた「先生が生徒を支配する学校構造を変えた」からです。「先生が手をかけ自分の箱に入れようとすればするほど生徒は逃げていき、自律できなくなる」「子どもの自尊感情を高めるためには自己決定を繰り返させる」。すべてがその通りでした。
民主主義を確立していくためには話し合うしかありません。しかし、今の社会では、対立やジレンマを乗り込めるため、多くの人は陰で悪口を言ったり、匿名で投稿したりします。本校に来たことがない人、見たことがない人ほど噂を真実だととらえ、悪口を吹聴しているのと同じです。私はだから差別はなくならないのだと実感しています。民主主義の確立も自由の本当の定義も実は大人が知らないのではないかと思います。
一斉登校になった時に、この体育館で集会を開きました。その時に私は皆さんにこう言いました。学校の構造を変えます。皆さんが本気で取り組んでくれれば学校が劇的に変わると。取り組みはじめて一年目は手ごたえを感じ、2年目は自信に変わり、3年目の今は確信に変わっています。教育が変わらなければ、社会は変わりません。
何が正解かわからない、予測困難な時代に突入しました。今までは真面目でコツコツ努力を重ねる事や、より多くの事を暗記するなどのスキルが求められていましたが、今では、問題発見力や適格に予想するなどのスキルが求められています。社会の求めるスキルが変わったのです。大学入試や就職の際にも、学歴などは気にされません。「あなたは何をしてきましたか」「あなたは何ができますか」と言う事に対して話すことが出来るかどうかです。実践してきたかどうかです。もうハウトゥー本は通用しません。ある大学の今年の入試では、生徒が突然知らないもの同士で5人組を組まされました。そこには紙コップを用意されており、この紙コップを使って平和な社会にするにはどうすればよいかという問いが出されました。学校で先生の一方通行の授業を聞いている、検索したらわかることを板書してそれを写すなどと言う作業はもう無駄でしかありません。そういう意味でも本校では出来るだけ生徒に企画・運営を委ね、決定権を譲っています。懇談や授業でのプレゼンテーション、探究旅行でも行き先を自分たちで考えると言う事もそうですし、様々な行事でも同様です。プレゼンテーションのコツはうまく話すことではありあせん。「未来」について語れるかどうかです。人々に「希望」をあたえられるかどうかです。

3年生の皆さん、覚えておいてください。ビリギャルの小林さやかさんの事、不登校発達障害の画家濱口瑛士さんの事、動物保護団体ハッピーハウスさんの事、環境活動家の露木志奈さんの事、タネノチカラさんの事、建国高校の事、北出精肉店さんの事、沖縄の問題、そして、自動販売機で社会貢献してきた事、自分たちで学校をつくってきた事、自分たちの学校にしてきた事、先生と生徒の関係を正しい方向性に変えてきた事・・全部誇りに思ってください。そしてこれからは社会を自分たちの手で変えていって下さい。
皆さんと同じように、私も今年度で北豊島中学校を去ることになります。やり残したことはたくさんありますし、さあ、これからという時に、残念な気持ちでいっぱいですが、逆に私がいなくても、生徒が先生と一緒になって学校をつくっていってくれると思っています。もう生徒はそんな力をつけてくれていると思っています。皆さんの想いは後輩たちが受け継いでいってくれると思います。

さあ、いよいよ卒業です。皆さんと過ごしたこの3年間は自分自身にとってもかけがえのない3年間でした。皆さんと同じようにこれからも「自分で情報を得て、自分で考え、自分で決断し行動し、他人のせいにしない」「「当たり前を問い直す事」も続けていきたいと思います。
くどくなりますが、「社会や世の中のあたりまえを問い直す事」を絶対に忘れないでください。そして「自分自身のあたりまえを問い直す事」も忘れないでください。そうすることで、はじめて「ぶれない自分」が出来ていくのだと思います。
保護者の皆さま、この子たちは我々大人が見たことのない世界を生きていきます。この子たちの平均年齢は100歳を超えます。80年後にどんな世界になっているのか、想像すらできません。人間はもともと自律する力や、想像する力、尊重する力をもって生まれてきます。しかし、大人社会が、学校文化を中心に「指示を出し、支配し、命令し、束縛し、排除し、自分の価値観を与え続けてきた」事で、自信を無くし、生きる望みを無くし、社会に失望しているのです。
今、学校はあれていないと言われていますが、とんでもありません。今、学校は深刻な状況です。24万人以上が不登校になり、500人以上の小中高生が自ら命を絶つ時代です。
古い体質の学校がそのまま続けば、不登校の子どもも、自ら命を絶ってしまう子どもも増え続けるでしょう。そんな息のできない、閉塞的な社会を切り開いていくのはこの子たちです。
我々大人こそが「当たり前」を問い直し、「アンラーン、(学びなおし)」をしていかなければならないと思います。ぜひ、この子たちの背中を押してやってほしいと思います。自由を与え、決定権を与え、ワクワクする人生を歩ませてやっていただければと思います。
最後になりましたが、いろいろと話題の多い本校教育に対しまして、ご理解・ご協力賜り、また、多大なご支援いただいた事、本当に感謝しております。ありがとうございました。
生徒の皆さん、いよいよお別れですね。君たちと一緒に過ごし、一緒に北豊島中学校を作り、一緒に北豊島中学校を去っていけることを誇りに思います。皆さんには感謝の気持ちしかありません。未熟な私を助けてくれて、本当にありがとうございました。皆さんのご活躍楽しみにしています。新しい時代を自分自身の力で、若い世代で、切り開いていってください。
池田市立北豊島中学校 校長大坪真哉』
画像2 画像2
文字: 大きく | 小さく | 標準 配色: 通常 | 白地 | 黒地
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

学校便り

令和4年度保護者向け警報発令時の安全確保のために

お知らせ

部活動基本方針